AIとCBDCが支配する為替市場の静けさと構造を読み解く視点

A glowing AI silhouette and central bank building over a flat forex chart, symbolizing a silent market under algorithmic and institutional control.

かつて為替市場は 躍動と変動に満ちていた。だがいま、相場に沈黙が広がっている。

経済指標が出ても動かない。
ドル円は150円で硬直し ユーロドルは政策発表後すぐ元の水準に戻る。
人民元やポンドも 市場原理では説明のつかない静けさに包まれる。

その背景にあるのが AIによる自動制御と 中央銀行が進めるCBDCという新たなインフラだ。
為替はもはや 経済の反応ではなく 国家とシステムの意図が設計する領域に入った。

相場の異常な静けさは 単なる材料不足ではない。
制度とアルゴリズムが手を組み 見えない力でボラティリティを抑え込んでいる。
そして その仕組みは すでに実例として市場に現れている。

この記事では 相場が動かない理由を 実際の値動きから読み解く。
AIとCBDCが支配する為替の未来を 知らずに相場を張ることのリスクと対策について深く掘り下げていく。

目次

為替市場は今、制度と技術のはざまにいる

為替市場はいま、新しいパラダイムに入っている。
伝統的な需給と指標による相場観では、もはや通用しない局面が増えてきた。
その背景にあるのが、AIによる価格設計とCBDCによる制度的誘導である。

かつて、為替レートは人間の行動の集合体だった。
ニュースや金利、地政学などに対する参加者の反応が、売買となって現れ、レートが動いた。
だが今、その構造自体が入れ替わりつつある。

AIはマーケットの中で流動性を計算し、演出し、制御している。
板の厚み、薄さ、順番、タイミング、さらにはストップ狩りを含めた予定調和までもが、AIによって設計されている。

さらにCBDCが導入されることで、中央銀行は市場介入の手段を根本から変えることが可能になる。
可視化された注文や実弾による介入ではなく、流動性そのものを静かに注入し、望ましい価格を形成できるようになる。

この二つが交差するポイントで、価格は自然な動きをやめる。

見えない価格操作が現実になっている

では、個人トレーダーはどう対応すべきか。
これを理解するためには、AIとCBDCが市場にどう影響しているかを具体的に捉える必要がある。

たとえば、板に突然厚い買いが現れ、それが一定時間消えないとき、そこにはAIの意図がある。
注文の本気度ではなく、市場への錯覚を演出するための仮想的な板が増えている。
これに釣られて買いが集まったタイミングで、逆方向に仕掛けるアルゴリズムは実際に存在する。

同様に、CBDCを活用した通貨の価格維持は、報道されない形で実行されている。
形式上は市場が静かなように見えるが、裏側では準備金や国債とのスワップを通じた流動性注入が継続的に実施されている。

これが続けば、価格が長期間にわたり一定水準に張り付く粘着相場が増えていく。
だが、これは市場が死んでいるのではない。
むしろ、生きている制度が価格を拘束している。

AIと制度が支配する為替の静けさ

近年の為替市場には、異様なほど価格が動かない時間帯が出現している。ニュースも材料もあるはずなのに、相場が一切反応を見せない。このような相場の静けさの背景には、制度とAIが連携して相場を意図的に凍らせている可能性がある。実際の値動きを見ると、その静けさが偶然でなかったと分かる場面がいくつもある。

ドル円が150円に張り付いた不自然な相場

2023年3月、ドル円は節目の150円に到達したものの、そこからまったく動かなくなった。通常であれば、節目到達後は利益確定や逆張りのフローが入り、多少の上下動があって当然だ。しかしこのときは、1時間以上にわたり実質的にレートが固定された状態が続いた。

政府や日銀による公式な為替介入は発表されていない。それにもかかわらず、板情報には一定量の買い・売り注文が入り続けていた。明らかに投機的な動きがあったにも関わらず、価格が動かない。この不自然な安定の背景には、介入が「実弾」ではなく、「期待とAI制御」によって行われていた可能性がある。

価格帯が150円付近に達すると、アルゴリズムが事前にプログラムされた反応を起こし、流動性を人工的に増やしながら価格を吸収し、実質的にボラティリティをゼロにする。これはもはや静観ではなく、設計された沈黙だ。

ECB政策発表直後のユーロドル反転現象

2024年9月のECB政策発表直後、ユーロドルは一瞬だけ上方向に動いたが、その直後、数分で発表前の水準まで全戻しした。この値動きは、通常の経済的反応では説明がつかないものだった。

内容は市場予想通りの金利据え置きで、発言もタカ派的ではなかった。それでも初動では「ユーロ買い」が入ったにもかかわらず、直後に分厚い売り板が出現し、瞬間的に反転した。これは偶発的なフローではなく、制度とAIによって「過剰反応を封じるため」に設計された反射的な動きだったと考えられる。

ファンダメンタルズに従えば上昇トレンドになるはずの場面で、あえて逆方向に圧力をかけて「不自然さを正す」。市場が自由に動くのではなく、望ましい価格領域に収まるよう、AIが瞬時に判断・制御している。

中国人民元とCBDC運用の影響

2023年夏、中国人民元はドルインデックスが上昇していたにもかかわらず、CFETS基準レートにおいて元高傾向を維持したままほとんど動かないという現象が続いた。これは通常の市場原理から考えれば明らかに不自然だ。

この時期、中国ではデジタル人民元(CBDC)の地域限定テストが進行していた。中央銀行が市場のレートを管理する手段として、従来の公開市場操作だけでなく、CBDCインフラを通じて流動性の供給を見えない形で調整していた可能性がある。

注文板の深さが一部時間帯で異常に薄くなるなど、AIによる精緻な注文制御が働いていた痕跡も見られた。価格を動かさないこと自体が目的となる局面では、制度とAIの融合が、自由市場の皮を被った統制経済を出現させることになる。

静かな市場は無風ではなく、制度が支配している

こうした事例が示すのは、もはや価格操作は激しい変動を起こすことで行われるのではなく、動かさないことで市場の期待値を設計する方向へと進化しているということだ。

トレーダーは、動かない相場を「何も起きていない」と解釈してはならない。背後で何者かが「動かさない努力」をしているかもしれないと、常に警戒すべきだ。

その視点を持つだけで、チャートに映る意味が変わる。

古い勝ちパターンはむしろ狙われている

その構造に気づかずにテクニカルで仕掛けると、負ける。
価格が動いた瞬間に飛び乗る。ブレイクを狙ってストップを置く。
こうした従来の戦術は、AIにとって最も読みやすい行動パターンとなっている。
だからこそ、失敗する。

過去には有効だった「順張り・押し目・ブレイク狙い」が、今では、狩られるための餌になっている。
なぜなら、個人トレーダーが予測する価格帯を、AIが先回りして板構成に反映させているからだ。
アルゴリズムが意図的にそこへ資金を流し、逆流を起こす構造は、もはや戦術ではなく戦略である。

市場構造を読み解くことが、唯一の勝ち筋になる

つまり、勝てない理由は戦術の古さではなく、市場構造の誤読にある。

テクニカルのパターンを知っているかではなく、
そのパターンが「制度にとって都合が良いか」を見抜けるかが問われている。

CBDCがもたらす粘着相場。
AIによるダマシ設計。
流動性の消失と供給がリアルタイムに切り替わる現場。

それらを価格の背景として捉える眼を持てば、無駄なエントリーは自然と消える。
無理なブレイク狙いも減り、むしろ「動かなさ」を読む戦術へと変わっていく。

価格が動かない。その理由を正確に見抜く力。
それが、これからのトレーダーに求められている。

豪ドルの不自然な滞留と制度的圧力

2022年11月、豪ドルは対ドルで0.6500付近に数日間とどまり続けた。材料も指標も乏しいなかで、なぜか価格が特定のレンジ内に静止したまま動かない状況が続いた。これは一見、出来高の細りによる停滞に見えるが、実際には制度とAIによる価格固定の疑いが強い。

このとき、オーストラリア準備銀行(RBA)は金利政策の変更を見送っていたが、市場には次回会合への観測や財務省関係者の水準発言が非公式に出回っていた。これを受け、北米とシンガポール系のファンドが、特定の水準を維持するアルゴリズムを稼働させていたという情報もある。

板情報では、0.6520を超えると瞬時に売り注文が分割されて並び、突破しようとするフローを機械的に吸収。逆に0.6480を下抜けそうになると、今度はAIが買い支えるような動きを見せた。価格を動かさず、安定を演出することで、制度的な安定感を相場が演出していたといえる。

こうした制御の裏には、中央銀行のスタンスと民間ファンドのポジションがAIを通じて協調するメカニズムが存在している。価格帯を維持する力の正体を読み解くことが、プロのトレーダーにとっての必須リテラシーになっている。

スイスフラン相場における静止と政策同調

2024年1月、スイス中銀が金利据え置きを発表した直後、スイスフランは一瞬だけ対ユーロで売られたものの、すぐに0.9400付近で静止する現象が観測された。

通常、金利イベント後は数十pips単位で揺れ動くのがセオリーだが、この日は発表直後から特定の価格帯を跨ぐ動きが極端に鈍くなり、3時間以上にわたってほぼ横ばいとなった。

板情報を観察すると、0.9400を超えるタイミングで極端に細かく分割された売り注文が連続して並び、AIによる価格制御の兆候が明確だった。

この相場には、スイス国内の金融機関が参加を絞っており、代わりに欧州系アルゴファンドが優位にフローを制御していたとの見方も出ている。

背景には、スイス中銀のインフレ抑制政策に逆らわないよう、主要ファンドが自主的に価格安定へ協調していた可能性が高く、制度と市場の暗黙の同調が成立していた。

こうした動きも、価格そのものではなく、制度の意志とテクノロジーの制御が市場を支配している実例といえる。

通貨ごとのCBDC構造を見抜くという視点

CBDCが現実の制度に組み込まれたとき、最も影響を受けるのは通貨ごとの制度的構造だ。
これは単なるデジタル化ではなく、誰が通貨を動かし、誰がコントロールするかのパワーバランスの問題でもある。

たとえば中国人民元は、すでにe-CNYとしてCBDCが商用実装されており、政府系プラットフォームでの決済に使われ始めている。これにより、国内外への送金速度、監視性、資金の流動経路が完全に管理下に置かれている。

一方、日本ではデジタル円の構想は進んでいるものの、未だ本格運用段階には達していない。
しかし、日本銀行が将来的にCBDCを本格導入した場合、為替介入や政策金利の伝播に用いられる可能性が高い。
特に市場を動かさずに政策を伝えることが可能になる点で、既存の口先介入とは異なる静かな強制力を持つ。

欧州通貨連合の制度的な複雑さ

この点で注目すべきは、ユーロ圏のデジタルユーロ構想だ。
ECBは制度として分散的に構成されており、国単位の通貨権限と中央の金融政策が複雑に絡む。
デジタルユーロが各国のCBDCとどう接続され、どこに主導権があるのか。
この通貨連邦内の力学は、将来的にユーロの価格形成構造を根本から変える可能性を秘めている。

ここで重要なのは、単にデジタル化された通貨ではなく、通貨の行き先と出所を制度がどこまで把握しているかだ。
これは資本移動の自由と相反する原理でもある。

つまり、CBDCの普及とは、制度と市場のせめぎ合いであり、自由と統制の力学そのものだ。

静かな相場に潜む支配構造

FXトレーダーにとっては、これまでのように価格変動の理由を経済指標や地政学にだけ求める姿勢では、もはや不十分になる。

特定の通貨にだけ不自然な静けさが続くとき、そこにはCBDCの管理ロジックが作用している可能性がある。
特に政策転換時、あるいは選挙や政権交代の前後など、制度的に不安定な時期に、価格がまったく動かないことがある。

この現象は、過去であれば市場参加者の様子見やリスク回避と解釈されていた。
しかし現在では、板を握るのがAIであり、流動性を支えるのが制度である限り、動かないことは明確な意図に基づいた価格操作と見るべきだ。

それが読み取れるか否かで、戦術の成功率は決定的に変わる。

静寂というシグナル

価格が張り付く、動かない、滑らない。
そうした現象がノイズではなくシグナルになっている。
トレンドやモメンタムを分析するより先に、なぜ市場が静かかを見極めること。
それが次世代の戦略の土台となる。

制度が主導する相場において、騒がしい瞬間よりも、静かな時間帯にこそ秘密が潜む。
目立たない沈黙の価格帯をどう読むかが、プロとアマの差を決める。

このような視点を持てるかどうかが、今後AIとCBDCが交差する相場環境において、生き残れるか否かの分かれ道になる。

南アフリカランドにおける政治的リスクと通貨の異常静止

2024年3月、南アフリカ総選挙の直前、USD/ZAR(米ドル/南アフリカランド)は16.80~16.90の極狭レンジで3日間連続して推移した。

本来、選挙直前の不確実性が高まる局面では、ランド売りが進むか、高ボラティリティになるのが通例だ。しかしこのときは、外部の材料が豊富にあるにもかかわらず、相場が驚くほど静かだった。

市場関係者の一部では、南ア準備銀行(SARB)が暗に価格安定を望んでいるとの見方が出ていた。実際、インフレターゲット維持や外資の引き止めが急務とされる中、為替の極端な変動は好ましくない局面だった。

板情報には、機械的に分割された注文が一定間隔で配置され、価格が上にも下にも動こうとするたびに吸収されていた痕跡が残っている。これらの動きは、SARBが直接介入したものではないが、国内外のAI取引システムが制度的要因を自律的に忖度していた可能性を示している。

市場が動かないという現象が、制度側の意図とAIの挙動によって意図的に作られていることが明確に表れた事例である。

カナダドル政策据え置き後の異様な静止

2024年5月、カナダ中銀が政策金利を据え置いた直後、カナダドル(USD/CAD)は1.3700付近に張り付き、約6時間にわたってほとんど動かないという異様な静止が発生した。

通常であれば金利イベント後にはトレンド方向へ一定の値動きが生じるものだが、この日は全くといっていいほどボラティリティが発生しなかった。

板情報を見ると、特定の水準において高頻度かつ極端に細かい注文が並び、相場がどちらかに傾こうとするたびに即座に吸収される動きが観測された。北米系ファンドがAI制御型アルゴリズムを稼働させていたという市場の観測とも一致する。

このような現象は、制度が明示的に市場に指示を出さなくても、AIと市場参加者が忖度して価格を安定させにいく、まさに現代的な価格統制の形と言える。

ボラティリティの欠如は単なる静けさではなく、制度の意志を代弁する沈黙なのだ。

薄商いの時間帯に現れる沈黙のメッセージ

AIとCBDCが市場の中核に浸透する一方で、最も顕著に影響を受けているのが、薄商いの時間帯と中間レートの張り付き状態だ。
とくにロンドン時間からNY時間の中抜けゾーンで、不自然な静けさが現れる通貨ペアが増えている。

その背景にあるのは、アルゴリズムの抑制モードと、政策当局のレート維持意図が合致している状態だ。
具体的には、欧州時間の終盤で変動率が極端に低下し、その後のNY入りで様子見レンジに留まるケースが目立つ。

これは、AIによる板形成が無風を意図している可能性が高い。
仮にリスク指標が動いていても、為替市場がそれを完全に無視して横ばいを続けるとき、市場参加者はなぜ動かないかを見極める必要がある。

相場の静けさは制度の介入かもしれない

多くのトレーダーがここで判断を誤る。
ボラがないから今日は休み。
ノーイベントだから様子見。
このように見えてしまう静かな相場にこそ、制度の影響力が色濃く反映されている。

実際、中央銀行は過去に何もしない介入を行ったことがある。
為替介入とは、必ずしも実弾でレートを押し下げる行為ではない。
金利の見通し、準備金操作、さらにCBDC環境下では中央銀行が直接マーケットの流動性供給ルールを変更することも可能になる。

この新しい介入の形では、レートが静止したように見えても、その水準を制度が選んだ可能性がある。

意図的なボラティリティ制御

そして、AIはその制度的な流れを読んで、価格の上下動を必要以上に抑制する。
トレンドの発生そのものを意図的に遅らせることもできる。

たとえば、ドル円が週初から150.00を挟んで一切動かない場合、そこには偶然ではない静止の理由がある。
日銀による政策金利の観測、財務省の口先介入、中国の人民元レート固定など、さまざまな制度的圧力が価格に作用していることを読み解くべきだ。

実際、2024年1月の第2週には、米雇用統計の結果を受けてドル円が上昇圧力を受けたにもかかわらず、週明けの東京市場では150.00付近で値動きがほぼ完全に停止した。このタイミングで中国は人民元の基準レートを元高方向に設定し、日本国内では黒田前総裁の講演も控えていた。市場は制度的な動きを先読みし、AIはそれに同調してボラティリティの発生を抑え込んだ可能性が高い。

このように、AIとCBDCが生む静けさは、単なるノイズではなく制度のメッセージである。

トレーダーを標的にしたAIの学習構造

また、AIの側も学習を進めており、過去に最も焼き殺されたパターンを優先的に再現する傾向がある。
たとえば、個人トレーダーのエントリーが集中した局面で、ボラティリティが急拡大する前触れを繰り返し再現する設計がなされている。

これは板の構成からトリガーまで、AI側が事前に決めた殺しの型であり、それにまんまとハマるのが個人投資家だ。

勝つためには、騒がしいチャートではなく、沈黙の理由を問うべきである。
値動きがない場面にこそ、答えがある。

それが読めたとき、マーケットの裏側で何が起きているかが見えるようになる。

CBDCが変える資本の流れ

今後、CBDCが世界的に標準インフラとして機能し始めたとき、最も大きく変容するのは資本移動の自由そのものだ。
従来、国際通貨制度は資本の自由移動を原則としていたが、CBDCの出現により、制度的に監視・制限可能な経済ブロックが出現しつつある。

資本統制とは、特定の通貨や地域から資金が逃げないように制御する仕組みである。
従来は外為法やマクロプルーデンス政策などを用いたが、CBDCではこれをリアルタイムで、しかも誰にも知られずに実行できる。

たとえば、国外送金をCBDCベースで行う場合、政府が送金の理由・相手・目的に基づいて許可・拒否の判断を行うことが技術的には可能になる。
これにより、戦時や危機下において資金の国外流出を制度的にブロックできる。

また、国内の特定業種や産業への融資、補助金、還元策などもCBDCを用いてタグ付きマネーとして実施される可能性がある。
つまり、お金そのものに使い道を埋め込める時代になる。

制度が価格を決める時代の到来

この動きが本格化すれば、為替レートは単なる市場力学ではなく、制度によって設計された流通パターンに影響される。
市場は流動性を計算しながら、自律的に価格を決める仕組みから、制度が決めた範囲内での価格変動に閉じ込められていく。

この流れの中で最も影響を受けるのが、為替市場における分岐トレンドの発生頻度である。
AIは制度と通貨需給の中で望ましくない方向の動きを抑制し、過去に繰り返されたトレンド発生のパターンすら非再現的なものへと変えていく。

トレーダーが取るべき新しい視点

では、このような構造変化の中で個人トレーダーはどう生き残るべきか。

それには3つの視点が必要だ。

1つ目は、静けさを見る眼だ。
これまで相場が動くことばかりに注目していたトレーダーにとって、動かない理由に価値を見出すことは、相場観の根本的な転換を意味する。

2つ目は、制度を読むリテラシーだ。
これは経済ニュースを読むだけでは足りない。
実際に国債の入札、金融庁のガイドライン、財務省の外為報告、各国中銀の資産バランスなどにアクセスし、制度が今、どのような相場の前提を作ろうとしているかを読み取る力が求められる。

そして3つ目が、AIの癖を読む力だ。
AIは完全無欠ではなく、過去のデータに基づく強い癖がある。
たとえば、東京時間の午後における特定通貨の滑り、指標発表後の不自然な反転、これらは人間ではなくAIのロジックによるものと考えたほうがつじつまが合う。

個人ができることは、こうした癖を記録・比較し、同じ状況に再遭遇した際にパターンの記憶として生かすことだ。
トレードの根拠をテクニカルから再現性ある構造的読みへとシフトさせていく。
これが、CBDCとAIが融合する時代における勝者の条件になる。

民間通貨と分散型市場の台頭

これまで述べてきた制度的CBDCと中央銀行主導の管理体制に対して、明確な抜け道を模索する動きも加速している。
それが、民間主導のステーブルコインや分散型金融による為替取引だ。

たとえば、USDCやUSDTといったドル連動のステーブルコインは、すでにビットコインやイーサリアムと並ぶ存在感を持ち、国際決済の一部を担い始めている。
その特徴は、中央銀行による強制的な流動性管理の外にあるという点だ。

一部の国では、ステーブルコインを使ったドル送金がCBDCよりも迅速かつ安価に実行可能であり、これが制度に対する裏口となっている。
つまり、AIとCBDCの組み合わせが市場を均質化しようとする一方で、民間が開発する脱制度的なインフラが、もう一つの価格決定構造を生み出している。

制度外に復活するボラティリティ

ここで重要なのは、制度外におけるボラティリティの復活である。

CBDCとAIが市場を静かに保とうとするとき、制度の外側ではその反動として、急激な価格変動や投機が発生する。
実際、イーサリアムやDeFiプロトコル上の通貨ペアは、制度通貨が動かない時間帯に爆発的な動きを見せることがある。

トレーダーにとって重要なのは、この制度と非制度のギャップを見抜くことだ。
法定通貨では動かない。だが、同じ時間帯にステーブルコイン市場では大きく動いている。
この事象は、制度が価格を押さえつけている証拠であり、制度外市場が吸収弁として機能している証明でもある。

ギャップを活かす戦術

では、個人トレーダーがこのギャップをどう活用するか。

まず、価格の違和感に敏感になるべきだ。
たとえば、ドル円がまったく動かない一方で、USDT/JPYのスプレッドが急拡大しているとき、それは制度の価格制御が最大化されているサインと捉えられる。

次に、制度の影響が及びにくい時間帯を意識すべきだ。
週末、祝日、NY市場が半日閉場の日などは、AIの板形成が弱まり、アルゴリズムによるダマシが発生しやすくなる。

最後に、こうしたギャップを戦略的に活用するには、複数のマーケットを同時に監視するスキルが必要になる。
これは単なる分足の比較ではなく、制度の力が働いているか否かを判断し、それによって戦術を切り替えるという判断軸だ。

相場は価格の動きではなく、力の所在を問うものになる

将来的には、制度市場(CBDC主導)と非制度市場(ステーブルコイン主導)は、対立しつつ共存していくことになる。
そして、為替市場とは、価格変動ではなく、どこで誰が価格を握っているかという、情報構造そのものを問う場になっていく。

トレーダーが向き合うべきものは、値動きではなく、価格形成の「主体」である。
この転換こそが、次の10年を生き延びるための鍵になる。

相場は価格の動きではなく、力の所在を問うものになる。

市場が反応しないからといって、背景に力が存在しないわけではない。むしろ価格を静止させている「何か」があると考える方が合理的な場面が増えている。

2023年11月、英ポンドはイングランド銀行の政策据え置き後、短期的にポンド安となる動きを見せたが、ロンドン市場では方向感を失い、1.22前後で3営業日連続でほぼ横ばいの推移となった。この間、英国債利回りは大きく変動しており、本来であれば為替もそれに追随して動くはずだった。しかし実際には、ポンド相場は微動だにしなかった。

この背景には、BOEの金融政策姿勢への忖度が市場全体に浸透していた可能性がある。特定の価格帯を維持することで、政策スタンスの安定感を演出しようとする制度的意図が市場のAI取引にも反映されていたと考えられる。

AIとCBDC時代の為替市場を生き抜くために

本稿で紹介してきたように、現代の為替市場では「価格が動かない」現象が重要な意味を持ち始めている。

AIアルゴリズムによる自動発注、CBDCを通じた制度的な流動性管理、そして中央銀行や政府による「発言なき介入」。それらが組み合わさることで、市場の静けさが逆説的に最大のメッセージを発している。

従来のように、経済指標やチャートの形状だけを根拠にしたトレードは、こうした構造変化に飲み込まれやすい。

これからのトレーダーに求められるのは、見えている価格の裏にある「制度の論理」と「AIの意図」を読み解く力。

誰が板を支配しているのか、なぜそこに注文が並ぶのか。ボラティリティがないことにどんな政治的・金融的意味があるのか。

もはや「動いたときだけ仕掛ける」時代ではない。

「動かない」ことにこそ、仕掛ける価値がある。

相場が静まり返るときこそ、最も多くの情報が隠れている。その沈黙を読み解ける者だけが、新しい時代の為替市場で勝ち続けられる

A glowing AI silhouette and central bank building over a flat forex chart, symbolizing a silent market under algorithmic and institutional control.

この記事が気に入ったら
いいねしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

中学時代から株のチャートを眺めて株価を予想し、大学生(18歳)になって直ぐに証券口座を開いて株式投資とFXを始める。新卒で東京の中小企業に就職するも、企業の将来性に不安を感じて僅か5か月で退職し、複数回の転職も経験。自宅で株取引とFX取引をして成功と失敗を繰り返しながら投資の実力を培う。現在は、主にFXで毎年安定してサラリーマンの平均年収の約3倍程度の投資収益を出している。複数の海外FX口座を利用中。FXで大きな儲けを獲得し、現在は不動産投資にも挑戦中!

目次